暦注下段とは

暦注下段とは

暦注下段(れきちゅうげだん)とは、日の吉凶や、特定の行動を行う際の適否を示す暦注の総称です。旧暦では暦の最下段に記されていたことから、「下段」と呼ばれるようになりました。

暦注下段には、天赦日や神吉日などの吉日、受死日や十死日などの凶日が含まれます。古くから、婚礼、建築、旅行、祭事などの日取りを決める際の参考として利用されてきました。

明治6年(1873年)の改暦では、政府によって吉凶判断を伴う暦注の官暦への掲載が取りやめられました。これは、近代化を進める中で、科学的根拠に基づかない吉凶判断を公的な暦に掲載することが適切ではないと考えられたためです。しかし、民間ではその後も暦注下段が記された暦が使われ続け、現在では日本の伝統的な暦文化や縁起を大切にする風習の一つとして受け継がれています。

なお、暦注下段における吉凶や禁忌は、科学的に証明されたものではなく、長い歴史の中で形成されてきた伝統的な暦の考え方です。現代では、日取りを決める際の参考や縁起担ぎとしてだけでなく、昔の人々の暮らしや価値観を知る文化的な手がかりとしても広く知られています。

七箇の善日(ななこのぜんにち)

七箇の善日とは、暦注下段における代表的な七つの吉日の総称です。
天赦日・神吉日・大明日・鬼宿日・天恩日・母倉日・月徳日の七つを指し、それぞれ異なる由来や意味を持ちながら、吉事を行うのに適した日とされています。

古くから、婚礼、開業、契約、建築、旅行、祭事などの日取りを決める際の参考として用いられてきました。
ただし、これらの吉凶判断は科学的に証明されたものではなく、長い歴史の中で形成されてきた暦文化や民間信仰の一つです。

天赦日(てんしゃにち・てんしゃび)

天赦日は、「百神が天に昇り、万物の罪を赦す日」とされる、暦注の中でも最上の吉日とされています。
婚礼、開業、契約、新しいことの始まりなど、幅広い事柄に良い日と考えられています。季節と日干支の組み合わせによって定められ、年に数回ほど巡ります。

神吉日(かみよしにち・かみよしび)

神吉日は、神社への参拝、祭礼、神事など、神様に関わる行いに良い日とされています。
暦注下段の中では、日本の信仰や祭祀と深く関係する吉日で、特定の日干支によって定められます。

大明日(だいみょうにち)

大明日は、「太陽が天地の隅々まで明るく照らす日」とされる吉日です。
先行きが明るく、物事が進展しやすい日と考えられ、婚礼、旅行、建築、移転など、さまざまな行動に適しているとされています。

鬼宿日(きしゅくび)

鬼宿日は、「鬼が宿にこもる日」という意味を持つ吉日です。
鬼が外へ出て災いを起こさない日とされ、多くの事柄に吉とされています。
一方で、婚礼については「嫁入りすると鬼と一緒に暮らすことになる」という俗信から、避けるべき日とされています。

天恩日(てんおんにち・てんおんび)

天恩日は、「天から恩恵を受ける日」とされる吉日です。
万物が成長し、福徳を授かる日と考えられ、婚礼や祝い事、新しいことの開始などに適しているとされています。一度巡ると5日間続くことが特徴です。

母倉日(ぼそうにち)

母倉日は、「母が子を慈しみ育てるように、天が人を慈しむ日」とされる吉日です。
何事にも良い日とされ、特に婚礼、安産、建築など、人を育み発展させる事柄に適していると考えられています。

月徳日(つきとくにち・がっとくにち)

月徳日は、その月の福徳を授かる日とされる吉日です。
特に建築、土木、増改築など、土地や住まいに関わる事柄に良い日とされています。月ごとに定められた干支によって巡ります。

三箇の悪日(さんがのあくにち)

三箇の悪日とは、暦注下段における代表的な三つの凶日の総称です。
大禍日・狼藉日・滅門日の三つを指し、古くから特に慎むべき日と考えられてきました。

これらは、本来、生まれ年の十二支との関係によって定められる凶日とされていますが、現在の暦では生年に関係なく、すべての人に共通する凶日として扱われる場合もあります。

古くから、婚礼、建築、開業、契約など、人生に関わる重要な行事を行う際には避けるべき日と考えられてきました。
ただし、これらの吉凶判断は科学的に証明されたものではなく、長い歴史の中で形成されてきた暦文化や民間信仰の一つです。

大禍日(たいかにち)

大禍日は、三箇の悪日の中でも特に凶意が強い日とされています。
「大きな災いを招く日」とされ、この日に物事を始めると、後に争いや災難につながると考えられてきました。

特に、家の修理、建築、門や塀の造営、船旅、葬儀などは避けるべきとされ、慎重に過ごす日とされてきました。

狼藉日(ろうしゃくにち)

狼藉日は、物事が乱れやすく、思いがけない災難や失敗を招きやすいとされる凶日です。

「狼藉」には、物が乱雑に散らばることや秩序が乱れることという意味があり、この日に始めたことは混乱につながると考えられてきました。

重要な決定や新しい事業の開始などは避け、慎重に行動する日とされています。

滅門日(めつもんにち)

滅門日は、「一門が衰えるほどの災いを招く日」と伝えられる凶日です。

家運や一族に関わる災いを避けるため、婚礼、新築、開業など、将来に影響すると考えられる行事は控えるべき日とされてきました。

大禍日・狼藉日と並ぶ三箇の悪日の一つとして、古くから忌まれてきた日です。

その他の暦注下段

暦注下段には、七箇の善日や三箇の悪日のほかにも、さまざまな吉日・凶日が記されています。これらは、古くから日取りを決める際の参考とされ、婚礼、建築、旅行、祭事、契約などの行事に影響を与えてきました。

ただし、暦注による吉凶判断は科学的に証明されたものではなく、陰陽五行思想や古くからの信仰、生活習慣の中で形成されてきた伝統的な暦文化の一つです。

受死日(じゅしにち・じゅしび)

受死日は、暦注下段の中でも特に凶意が強い日とされる凶日です。
古くは「この日に病を得ると命を落とす」とまで伝えられ、葬儀以外のほとんどの行事を避けるべき日と考えられてきました。

また、昔の暦では黒丸を付して記されたことから、「黒日(くろび)」と呼ばれることもあります。ただし、この呼称は暦や地域によって扱いが異なります。

十死日(じゅうしにち)

十死日は、受死日に次ぐ大凶日とされる暦注です。

万事に凶とされ、婚礼、建築、契約などの祝い事を避けるべき日と伝えられてきました。また、葬儀についても慎むべき日とする考え方があります。

受死日ほど一般には知られていませんが、古い暦では強い凶日として扱われてきました。

五墓日(ごむにち・ごぼにち)

五墓日は、葬儀や墓に関すること、また土に関わる事柄を慎むべきとされる凶日です。

「この日に葬儀を行うと墓が五つ並ぶ」という俗信から、この名が付けられたといわれています。

動土、地固め、墓の建立、埋葬、種まきなどは避けるべきとされる一方、家屋の建築については差し支えないとする説もあります。

帰忌日(きこにち・きしにち・きこび・きこじつ・きいみび)

帰忌日は、「帰忌(きこ)」という凶神が地上に降り、帰宅や移動を妨げるとされる凶日です。

古くから伝わる暦注の一つで、奈良時代の暦にも記載例が見られます。正倉院に伝わる天平勝宝年間(749〜757年)の暦には、遠行、帰家、移徙(引っ越し)、婚礼を避ける旨の記述があります。

そのため、旅先からの帰宅、里帰り、引っ越し、嫁入りなど、「帰る」「戻る」ことに関わる行動を慎む風習がありました。

血忌日(ちいみび・ちこにち・いみにち)

血忌日は、「血忌(ちいみ)」という凶神が支配するとされた凶日です。

古くは、血を流す行為を慎む日とされ、鍼灸、手術、抜歯、刑罰、狩猟などを避ける考え方がありました。

これは陰陽道や暦法に基づく伝統的な考え方であり、現代医学的な判断とは異なります。

重日(じゅうにち)

重日は、この日に起こった出来事が繰り返されると考えられた暦注です。

吉事を行えば吉事が重なり、凶事を行えば凶事も重なるとされました。

そのため、預金や商売など財産に関することには吉とされる一方、婚礼は再婚につながるという俗信から避けられることがありました。

復日(ふくにち・ぶくび)

復日は、「物事が繰り返される」という意味を持つ暦注で、重日と似た性質を持つ日です。

吉事を行えば吉が重なり、凶事を行えば凶も重なると考えられてきました。

そのため、祝い事には吉とされる一方、葬儀では不幸が重なることを避けるため忌む風習があります。

天火日(てんかにち・てんかび)

天火日は、五行説における「天火」の気が強まるとされる凶日です。

この日に棟上げや屋根葺きなどの家屋工事を行うと、火災を招くという俗信がありました。

そのため、建築、屋根工事、転居、家屋の修理などは避けるべき日とされてきました。

地火日(ぢかにち・ちかび)

地火日は、地中の気が乱れると考えられた凶日です。

動土、地鎮、柱立て、井戸掘り、墓造り、種まきなど、土地を動かす作業を避けるべき日とされてきました。

凶会日(くえにち・くえび)

凶会日は、陰陽の気が乱れ、凶意が重なるとされた日です。

婚礼、契約、開業などの吉事には不向きと考えられ、重要な行事を避ける風習がありました。

往亡日(おうもうにち)

往亡日は、「往けば亡ぶ」という意味を持つ凶日です。

旅行、遠出、参拝、引っ越し、嫁入りなど、目的地へ向かう行動を慎むべき日とされてきました。

時下食(ときげじき)

時下食は、特定の日の特定の時間帯を忌む暦注です。

伝承では、天狗星(てんこうせい)の精がその時間に地上へ降りて食事をするとされ、人が同じ時間に食事をすると精気を奪われると考えられていました。

そのため、この時間帯は食事のほか、種まき、沐浴、植樹なども避けるべきとされました。

歳下食(さいげじき・さいかじき)

歳下食は、時下食と同じく天狗星の精に関係するとされる暦注ですが、特定の時間ではなく、その日一日を対象とします。

比較的軽い凶日とされ、他の吉日と重なる場合には影響が弱まると考えられる一方、凶日と重なる場合には凶意が強まるとされてきました。