英語の月の名前の由来は、古代ローマまでさかのぼります。

そして驚くべきことに古代ローマでは、1年が10ヶ月の暦を使っていました。

しかし太陽の周りを地球が12ヶ月かけて一周することから、暦の1年は12ヶ月と定められているはず。

それでは、古代のローマでは地球が太陽の周りを10ヵ月でまわっていたということでしょうか。

今回は、大昔の暦では1年は10ヶ月しかなかったという衝撃の事実を解き明かしながら、月の異名の由来についても紐解いていきます。

古代ローマでは1年が10ヶ月しかなかった

古代ローマで最初の暦が作られたのは、紀元前8世紀頃と言われています。

この暦は、ローマの建国者であり伝説の王とも呼ばれるロムルスの名を冠し、ロムルス暦とされました。

そんなロムルス暦には、これ以降の暦と大きく違う点があります。
それは、ロムルス暦には1年が10ヶ月しかない点です。

しかし当然紀元前の昔と今でも、地球が太陽の周りを回る周期に変わりありません。地球は12ヶ月かけて太陽の周りを公転しています。

ではなぜロムルス暦では、1年が10ヶ月になってしまったのでしょうか。

ロムルス歴では厳冬期をカウントしない

ロムルス暦の1年は、Martius(現在の3月)から始まります。
現在の3月であるMartiusを最初の月とした10ヶ月が1年です。

1週間が8日あり、これが38週。
1年は304日です。
でが、残りの61日をどう考えたのでしょうか。

実は残りの61日間は、冬の期間として1年にカウントしませんでした。

最も寒さの厳しい現在の1月と2月に当たる冬真っ盛りの頃は暦にもカウントせず、春が始まる頃から再び1年がスタートするという考え方です。

この理由には諸説あるものの、一説では、当時の暦が農業と関連していたたことが有力であろうとされています。
農業のできない厳寒期は、暦も休眠期間になっていたのではないか、という考え方です。

この変則的な暦の影響は、その後に生まれる暦の英名にも見られます。

英語の月名は古代ラテン語が由緒

ところで英語である月の英名が、ラテン語で綴られる古代ローマの暦と関連しているのはなぜでしょうか。

それは英語が言語として発展していく過程の中で、ラテン語から派生した言語の影響を受ける出来事があったためです。

欧米で話されている言語には2つの大きな流派があります。
ゲルマン語系とロマンス語系です。

ラテン語は、ロマンス語系に分類されます。
古代ローマで話されていた言語から派生しており、フランス語イタリア語スペイン語などは古代ののラテン語が変化したものでし。

一方の英語はドイツ語や北欧のスカンジナビア言語、オランダ語に近い言語と言われています。

英語は全くラテン語とは遠いところにある言語です。
しかし11世紀頃、フランスがイングランドを征服したノルマン・コンクエストの影響を受け、フランス語を介してラテン語の影響を大きく受けました。

こういったラテン語の影響を受けた英単語は数多くあり、暦の英名もその一つであると考えられています。

ロムルス暦における月の名前

ロムルス暦の月の名前は、現在使われている月の英名にも影響しています。

そこでまずは、ロムルス暦における暦の呼び名を解説しましょう。

ロムルス暦現在の暦ロムルス暦の月の名前ロムルス暦の月の名の由来
1の月3月Martius(マルティウス)ローマ神話の軍神であるマルス
2の月4月Aprilis(アプリリス)ローマ神話の春と美の女神、アフロディーテ・ラテン語の花開く(Aperio)を語源にするという説もあり
3の月5月Maius(マイウス)ローマ神話の豊穣の神であるマイア
4の月6月Junius(ユニウス)ローマ神話の結婚の神であるユーノ
5の月7月Quintilis(クインティリス)ラテン語で5番目の月、Quinque
6の月8月Sextilis(セクスティリス)ラテン語で6番目の月、Sex
7の月9月September(セプテンベル)ラテン語で7番目の月、Sept
8の月10月October(オクトーベル)ラテン語で8番目の月、Octo
9の月11月November(ノウェンベル)ラテン語で9番目の月、Novem
10の月12月December(デケンベル)ラテン語で10番目の月、Decem

ロムルス暦では、1月〜4月までの名称に、ローマ神話の神々の名前を使用しています。

しかし5月以降の月の名称では、ラテン語の○番目の月、という表記に変わっているのが特徴的です。

その理由は明らかになっていませんが、農業に関係のある花や豊穣の神々の名を冠したことから、冬の終わりの喜びや、春に対する特別な期待を込めたのではないか、とも言われています。

ヌマ暦の登場で1年が12ヶ月になった

最初の暦と呼ばれるロムルス暦ですが、時代が下るにつれて、約60日間もの暦の空白期間を埋める動きが始まりました。

こうして生まれたのが、ヌマ暦です。

ロムルス暦では1年は10月までしかありませんでした。
ところがヌマ暦では、ロムルス暦に11月と12月をつけたした、1年12ヶ月の暦に生まれ変わっています。

ヌマ暦現在の暦ヌマ暦の月の名前ヌマ暦の月の名の由来
11の月1月Januarius(ヤヌアリウス)ローマ神話の門の神であるヤヌス
12の月2月Februarius(フェブルアリウス)ラテン語の清めという言葉、フェブルア(februa)

※ヌマ暦1月から10月は、ロムルス暦1月から10月と同様

ヌマ暦は紀元前153年より前頃に生まれた暦と言われています。
こうして1年が12ヶ月の暦が誕生しました。

またヌマ暦では2年に1度、27日もしくは28日の閏月を設けています。
また閏月のある年は、最後の月を23日にするといった工夫もされていました。

Martius(マルティウス)、Aprilis(アプリリス)、Maius(マイウス)といった音韻からも、現在の暦の片鱗が感じられるでしょう。

ヌマ暦は改訂されている

さらにヌマ暦は紀元前153年頃に改訂されています。
この改定の際に、現在の3月であるMartius(マルティウス)から始まっていた暦を、現在の11月、Januarius(ヤヌアリウス)から始めるように変更しました。

改定後のヌマ暦が以下です。

ロムルス暦ヌマ暦現在の暦
Januarius(ヤヌアリウス)1月
Februarius(フェブルアリウス)2月
1の月Martius(マルティウス)3月
2の月Aprilis(アプリリス)4月
3の月Maius(マイウス)5月
4の月Junius(ユニウス)6月
5の月Quintilis(クインティリス)7月
6の月Sextilis(セクスティリス)8月
7の月September(セプテンベル)9月
8の月October(オクトーベル)10月
9の月November(ノウェンベル)11月
10の月December(デケンベル)12月

なぜヌマ暦を使用している途中で改定したのか。
その理由には諸説あります。

中でも特に有力視されているのが、西暦の改定が行われた紀元前153年より2年前の紀元前155年に起きた戦争です。

イベリア半島のルシタニアでルシタニア戦争が勃発。
さらにその翌年には、同じくイベリア半島でヌマンティア戦争が続けざまに起きています。

この非常事態に対応するために、新しい政治体制を整え、新しい執政官を就任させた日が、ヤヌアリウスの1日であり、この日を1年の始まりとしたのではないか、という説です。

新しい執政官の権威を誇示し、求心力を高める目的があったのではないかと考えられています。

現代の暦の祖、ユリウス暦の登場

ヌマ暦は長きにわたって、古代ローマで使用されました。
しかし閏月の挿入の仕方がイレギュラーであり、運用にはかなり混乱があったと言われています。

そこで紀元前46年頃、古代ローマ共和政末期の政治家であり将軍であるガイウス・ユリウス・カエサルが、天文学者や科学者を集めて地球の公転周期を計算させ、季節のズレを修正した暦の作成を試みます。

この結果、1年は365日と6時間であると判明。
フェブルアリウス(2月)を28日にすると同時に、4年に一度閏年を設ける暦が誕生しました。

ヌマ暦現在の暦ユリウス暦
Januarius(ヤヌアリウス)1月Januarius(ヤヌアリウス)
Februarius(フェブルアリウス)2月Februarius(フェブルアリウス)
Martius(マルティウス)3月Martius(マルティウス)
Aprilis(アプリリス)4月Aprilis(アプリリス)
Maius(マイウス)5月Maius(マイウス)
Junius(ユニウス)6月Junius(ユニウス)
Quintilis(クインティリス)7月Julius(ユリウス)
Sextilis(セクスティリス)8月Sextilis(セクスティリス)
September(セプテンベル)9月September(セプテンベル)
October(オクトーベル)10月October(オクトーベル)
November(ノウェンベル)11月November(ノウェンベル)
December(デケンベル)12月December(デケンベル)

月の呼び名自体に、ヌマ暦とユリウス暦の大きな違いはありませんが、7月のQuintilis(クインティリス)がJulius(ユリウス)に変わっています。

これは当時の将軍であったユリウス・カエサルの誕生月が7月生まれであったため、自らの権威を誇るためにJulius(ユリウス)に変更したという説が有力です。

政治利用された暦

ユリウスカエサルの妹の孫であり、初代ローマ皇帝であるアウグストゥスの時にも、暦の改訂が行われています。

この時はアウグストゥスが戦争に勝利したことを記念するとして、8月であるSextilis(セクスティリス)をAugustus(アウグスツス)に変更。

さらに1ヶ月が30日の月であった8月を31日に変更しました。

これは、自らを記念する月である8月の日数が他の月より少ないのは好ましくないという考えであった、とされています。

こういったローマ帝国皇帝の権限が移行するたびに、新しい皇帝が月の名前を変える動きは続きました。

例えば第5代のローマ皇帝であるネロも、自分の誕生月である4月をNeroneus(ネロネウス)としています。

しかし悪名高いネロによる暦の改訂は、彼の死後修正され、Aprilis(アプリリス)に戻されました。

世界中で使用されているグレゴリオ暦の誕生

現在の私たちが使用している暦はグレゴリオ暦と呼ばれます。

グレゴリオ暦はローマ教皇グレゴリウス13世がユリウス暦の改定を命じたことに始まり、1582年10月15日から運用されています。

現在の暦ユリウス暦グレゴリオ暦
1月Januarius(ヤヌアリウス)January(ジャニュアリー)
2月Februarius(フェブルアリウス)February(フェブラリー)
3月Martius(マルティウス)March(マーチ)
4月Aprilis(アプリリス)April(エイプリル)
5月Maius(マイウス)May(メイ)
6月Junius(ユニウス)June(ジューン)
7月Julius(ユリウス)July(ジュライ)
8月Augustus(アウグスツス)August(オーガスト)
9月September(セプテンベル)September(セプテンバー)
10月October(オクトーベル)October(オクトーバー)
11月November(ノウェンベル)November(ノベンバー)
12月December(デケンベル)December(ディセンバー)

まとめ

暦の英名を紐解くと、農業を中心に暮らしていた太古の昔から、政治による支配が拡大。
権力者が台頭しては移り変わった歴史が伺えます。

月の英名は、時代背景を映す鏡という側面もありました。