クリスマスが終わると、街はあっという間にお正月モードですね。
仕事納めのあとは年賀状の準備や大掃除と慌ただしく年の瀬を迎え、お正月には親戚の集まりに顔を出し、気がつけば仕事始めなんていうバタバタとした年末年始を過ごす方も多いと思います。

「正月」とは、本来は1月の別名ですが、現在では松の内といわれる1月7日までのことを指すのが一般的です。

お正月は、古くから1年のなかで最も多くの年中行事が行われてきましたが、元来、新年の神様である「年神様」をお迎えして1年の幸せを願う行事だということを知っていますか。

現在でも受け継がれる年賀状やお正月飾り、おせち料理や初詣など、新しい年の始まりをお祝いする習わしには、ひとつひとつに深い意味が込められているのです。

年神様とは

年神様とは、新しい年にみのりをもたらし人々に命を与えてくれる神様であり、地域によって正月様、歳徳神(としとくじん)などさまざまな名前で呼ばれています。

昔の人は、祖先の霊が春に里に降りてきて田の神となり、秋の収穫が終わると山へ帰って山の神となり、正月には年神様となって子孫の繁栄を見守ってくれると考えていました。
そこから、年神様をお迎えしてお祝いをするさまざまな風習が生まれたのです。

正月事始め

正月事始め(しょうがつことはじめ)とは、お正月を迎えるための準備を始める日のことで、現在は新暦の12月13日に当たります。
旧暦では12月13日を「鬼の日」としていて、この日は婚礼以外はすべて吉とされ、お正月の準備をするのによい日として伝えられてきました。

煤払い(すすばらい)

煤払いとは、新しい年神様を迎えるために1年の汚れを払っておく行事で、有名なお寺や神社などで煤払いをする様子をテレビのニュースで見たことがある人も多いでしょう。
昔の家屋には囲炉裏があったため煤がつきやすく、煤払いが正月事始めの重要な仕事でしたが、現在の家庭では新しい年を気持ちよく迎えるための大掃除として行われています。

松迎え

門松や正月飾りのための松を、正月事始の日に山へ取りに行くことを松迎えといいます。
「神を待つ木」ということから、昔から松は神霊が宿る木とされ、松迎えが年神様を山から迎えることを意味すると考える地域もあります。

正月飾り

人々は、年末になると煤払いをし、松迎え、餅つき、しめ縄張りなどのお正月の準備をして年神様が訪れるのを待ちました。

正月飾りは、末広がりの意味を持つ「八」がつく12月28日に飾るのがよいとされています。
29日は「苦待つ」や「二重苦」という意味があるので避けた方がよいでしょう。
31日は「一夜飾り」といわれ葬儀と同じで縁起が悪く、神様を迎えるにあたって失礼になってしまいます。
28日までに飾れなかった場合は30日に飾りましょう。

門松

新年を祝って家の門や玄関に飾られる門松は、お正月に年神様を招くための目印ともいわれています。

1年中、葉を落とさない常緑樹の松は縁起がよいとされていて、祀る(まつる)に通じるおめでたい木として飾る風習が根付きました。
そこに竹や梅をあしらうと「松竹梅」の縁起物になります。
松は神が宿る木で長寿を、竹はまっすぐに伸び地面にしっかりと根を張ることから子孫繁栄を、梅は早春に花を咲かせることから清廉さや生命力を象徴するといわれるためです。

門松は、左右一対で並べるのですが、玄関に向かって左側に葉が太くて固い雄松、右側に葉が細くて柔らかい雌松を飾ります。
1月7日までのことを松の内というのは、門松を飾っておく期間のことを指しているのです。

注連飾り(しめかざり)

年神様を迎えるための正月飾りのひとつで、稲のわらで編んだ縄に「語弊」と呼ばれる紙の束をつけた飾りです。
玄関や神棚、台所、お手洗いなど、家の中のさまざまなところに飾り、松の内を過ぎると外すのが習わしですが、神棚には1年中飾っておいても構いません。

注連縄といえば、出雲大社の神楽殿に掲げられる大注連縄が有名ですが、長さ13メートル、重さは5トンにもなります。
家庭の注連飾りも起源は同じで、神様の領域とこの世の境界線を表しています。
家の出入り口に飾ることで自分の家に不浄なものが入らないよう境界線を張ったことになり、年神様を迎えるのにふさわしい神聖な場所であることを示しています。

鏡餅

お正月といえばお餅は欠かせませんね。
お雑煮やおしるこなど、お正月にお餅を食べる習わしには長い歴史があり、宮中で行われた三が日に硬いものを食べて長寿を願う「歯固めの儀式」が由来してるといいます。
鏡餅はおせち料理と同様に、年神様に供える神饌(しんせん)です。

お餅を大小二つ重ねるのは、月(陰)と日(陽)を表していて、陰陽道では福徳が重なって縁起がいいとされています。
丸餅なのは、丸が円満や豊穣を表す縁起のよい形であり、歴代の天皇が継承する三種の神器のひとつ、青銅でできた円形の八咫鏡(やたのかがみ)に由来しているからといわれます。

鏡開きは1月11日に行われ、年神様にお供えした鏡餅を割って食べることで神の力を分けてもらおうとする行事です。
刃物で切るのは縁起がよくないとされ、手で割ったり木槌で叩いたりしてお雑煮やおしるこにして食べ、一家の円満と繁栄を願うのが習わしです。
切る、割るという忌み言葉を避け、運を開くという願いも込めて「鏡開き」という縁起のよい言葉が使われるようになりました。

初日の出

古来から初日の出とともに年神様が降臨されるとされ、初日の出を拝むことはおめでたいと考えられていました。

元旦の「元」という字は物事のはじめという意味があり、元日は1月1日のことをいいます。「旦」という字には朝、夜明けという意味があり、元旦は1月1日の朝のことを指します。
元旦に最初にのぼる太陽のことを指して初日の出と呼び、それを拝むことは年神様にその年の幸せを祈る意味があります。

明治以降には、元旦に見晴らしのいい場所に出かけて初日の出を拝むことが盛んになり、特に山頂で迎える日の出は「御来光」と呼ばれ縁起がよいとされました。

おせち

お正月料理の定番といえばおせちですね。
おせちは「御節供(おせちく)」の略で、かつては五節句ごとに出されていた料理でしたが、現在ではお正月のおせちの風習だけが残っています。

五節句:人日(じんじつ/1月7日)、上巳(じょうし/3月3日)、端午(たんご/5月5日)、七夕(しちせき/7月7日)、重陽(ちょうよう/9月9日)

おせち料理はそもそも年神様へのお供えで、家族でおせちをいただき1年の無病息災と家内安全を祈願する習わしがありました。

年神様をお迎えする間は煮炊きを慎まなければならない、三が日に主婦が水仕事を休めるようになどといわれ、日持ちがするように工夫してつくられたのがおせち料理です。

おせち料理の中身や重箱の詰め方は家庭や地域によって違いがありますが、縁起をかついだ食材が使われ、五品、七品といった縁起のよい奇数で彩りよく盛り付けます。
重箱を重ねるのは、めでたさを重ねるという意味が込められているためです。

一の重

「口取りと三つ肴」

  • 紅白のかまぼこ(魔除けの赤、清浄の白)
  • 栗きんとん(財がたまるように)
  • 黒豆(まめに暮らせるように)
  • 数の子(子孫繁栄)
  • 田作り(豊作祈願)/関西ではたたきごぼう
  • 伊達巻(文化の発展)
  • 昆布巻き(よろこぶ)

二の重

「酢の物・焼き物」

  • 鯛(めでたい)
  • 海老(腰が曲がるまで長生きできるように)
  • ブリの照り焼き(出世を願う)
  • 紅白なます(おめでたい水引きを連想)

三の重

「煮物」

  • れんこん(将来の見通しがきく)
  • 里芋(子芋がたくさんつくため子宝)
  • くわい(大きい芽が出るため、めでたい)
  • ごぼう(根を張り、一家の繁栄を願う)

煮しめには家族仲良く結束するという意味と、「鬼を〆る」から魔を祓うという意味もあります。

お屠蘇(おとそ)

元日の朝、祝いの膳の前に家族そろって新年を祝うためにいただくお酒です。
中国から始まり、日本には平安時代に伝わった風習で、邪気を払う、魂を蘇らせるという意味から長寿への願いが込められています。

酒やみりんで生薬を漬け込んで作られる薬草酒で、現在では薬草を合わせた屠蘇散が薬局や酒屋で市販されています。

祝い箸

おせち料理やお雑煮をいただくときは、祝い箸として両端が細く中太の丈夫な柳箸を使います。
大晦日に、家長が家族の名前をそれぞれ箸袋に書き入れて神棚に供えておき、元旦に下ろして松の内までは同じ箸を使います。
箸の両端が細くなっているのは、片方は自分が使い、もう片方は神様が使うためで、人神共食を意味しています。

お雑煮

元日の朝に汲み上げた若水と、新年の最初につけた神聖なる火で年神様にお供えした食材を煮たものです。
神様と一緒に食事をする大切な儀式という意味があります。

お年玉

現在は、ポチ袋にお金を入れて子どもにあげるのが習慣となっていて、子どもにとっては新年のお楽しみのひとつですね。
もともとは「御歳魂」といい、年神様にお供えしたお餅などを年少者に分け与えたのが起源といわれています。
今でも、年神様に扮した人が元旦に子どもたちに丸餅を配って回る風習がある地域もあります。

お年玉が金銭になったのは江戸時代からで、商家などで奉公人にお餅の代わりに与えるようになったといわれています。

どんど焼き

正月飾りを火で焚く小正月の行事で、地域によって左義長(さぎちょう)や道祖神祭り(さえのかみまつり・どうそじんまつり)など、さまざまな呼び方があります。
左義長の由来は、平安時代に宮中で行われた陰陽師が悪魔を祓うための火祭りの儀式にさかのぼり、それが民間に広がっていきました。

現在では、氏神様の神社の境内や刈り取ったあとの田んぼなどで行われるようになり、1年のはじまりに穢れを祓い、無病息災や五穀豊穣を祈る行事となりました。

小正月(1月15日)に火を焚き、立ち上る火の中にお正月に飾った注連飾りや門松、書初めなどをくべて焼いてもらいます。
書き初めを燃やしたときに炎が高く上がるほど書道が上達する、どんど焼きの火で焼いた餅を食べると病気をしないといった言い伝えもあります。
また、お正月に天から降りてきた年神様をどんど焼きの煙に乗せて天にお送りするという、伝統的な火祭りでもあるのです。

おわりに

今も受け継がれるお正月の風習にはさまざまな意味が込められています。
慌ただしい年末年始のなかでも、家族の幸せを願って準備をし、ご先祖様を年神様としてお迎えする気持ちで過ごしてみるのも、心が豊かになってよいのではないでしょうか。